[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック
Cairns遠征2004
1.はじめに
2004年春に明るくなったLINEAR彗星(C/2002 T7)、NEAT彗星(C/2001 Q4)は、4月から5月にかけて「肉眼彗星」として同じ夜空に見えることが期待されていました。ただし、地平高度などの観測条件がよい場所となるとどうしても南半球に行かざるを得ません。お金と時間がないとできないことです。なので当初は「それなりに明るくなれば日本からでも楽しめるかなあ…」ぐらいにしか考えていませんでした。
2月下旬のことでした。
その頃から、いよいよ天文雑誌の広告にも「2大彗星観測ツアー」が登場し始めました。大方は1週間前後のツアーが組まれていて、どう考えてもそんなに休みは取れそうにありません。「観測地はSydney郊外かぁ。まてよ?この日程表には日曜日が2回あるな。もし、週末だけ見に出かけるとしたら、どちらの週末の方が観測条件がよいのだろう?」ふとそんなことを思いついて、パソコンの天文シミュレーションソフトで表示してみると、
@最初の週末(5/15-16)では2彗星が夕方と明け方に分かれていて「同時」にはならないので、これではおもしろくない(←ちょっと贅沢すぎ?)。
A次の週末(5/22-23)だと「同時」になるが、彗星の移動によりNEAT彗星の観測条件が悪くなっている(高度が低い)。23日だと、月があるのもちょっと気がかり。
等々、南半球での2彗星の見え方について具体的なイメージがつかめてきました。
図1 Sydney(南緯34゜付近)での2彗星の見え方(5/23の夕方)
「それにしてもAの週末、地平線に対する2彗星のバランスが悪いなあ(←この時点ではまだ行く気はなかったというのに、なんとも失礼な私)。」この頃では、NEAT彗星の北上に伴って高度が低くなってしまうようです。となると、もう少し南緯の小さい観測地であればバランスがとれるはず。試しに成田からの直行便があるCairnsでの様子を表示させてみると、ずばり「おー、これはイケル!」ではないですか!さすがに月が沈んでからの撮影は厳しそうですが、まあ、とりあえず3〜4等台で見えていてくれれば、これぐらいの月明かりは「気にならない」レベルと割り切ることもできそうです。
図2 Cairns(南緯17゜付近)での2彗星の見え方
インターネットで調べてみると、Cairns直行便の往復は、最短で「金曜日の夜出発(機内泊)−月曜日の夕方帰国」という組み方が可能でした。1日半ぐらい休みを取れば何とかなる計算です(教員をやっているため、年休で授業が自習になる回数はできるだけ減らしたい)。しかもラッキーなことに観光シーズンのピークを過ぎているようで、チケット代は最安期間にあたっています。つまり、この段階で「観測条件」と「お金と時間」の都合はついています(=だんだん行く気になってきました)。
問題は天候です。Cairnsといえば、熱帯雨林?亜熱帯?と思いたくなるぐらいに赤道に近い都市です(南回帰線よりも北側に位置しています)。ところが、これまたインターネットで調べてみると、「だいたい11月から4月が雨期、5月から10月が乾期」らしいことがわかりました。特に決定打となったのが、オーストラリアの気象庁(
http://www.bom.gov.au/)提供の、主要各都市の月別の気候統計(降水量・晴天日数などのデータ)でした。順調にいけば5〜6月は乾期に入っており、またレンタカーである程度内陸に入れば、エアーズロック周辺よりも雨量が少なくなる地域もあるようです。ってことは、結論として「行くしかない」でしょう。こんなチャンス、多分一生に一度あるかないかでしょうから…。
「よし!行くか!」ということで、真っ先に格安航空券の手配をかけたのはいうまでもありません。これが確保できた時点で、いよいよ本格的な宿泊地の選定・手配、現地での移動と撮影のスケジュール作成等の作業に入りました。
2.旅行日程など
前項で検討した種々の条件を考慮して、次のような行程を組みました(日付は全て5月)。実際、観光旅行というよりは出張に近い感じでした。お土産も空港などでのわずかな空き時間に駆け足で買っていましたし(笑)。
21日(金) 夕方成田へ。21h25m出発(機内泊)
22日(土) 早朝にCairns到着。
空港でレンタカーを借りて荷物を積み込み、内陸へ(片道約350km)。
夕方キャンプ場に到着。そのまま現地で観測。
23日(日) 夕方まで現地で滞在し、2日目の観測。
終了後Cairnsまで戻り、宿舎に入る(チェックインは深夜)。
24日(月) 朝レンタカーを返却。タクシーで空港へ。
12h10m発の便で帰国。その後新幹線で上田へ戻る。
とにかく晴れないと困るので、内陸へ移動することを前提にレンタカーの手配も代理店にお願いしました。ここで問題となったのが宿泊地で、Cairnsから高速道路で内陸部へ向かっていくと「かなりド田舎」になるらしく、ホテルにしてもモーテル(日本でいう民宿)にしても、インターネットで探してもなかなかよい候補が出てきません。で、最終的にみつけたのが、
Undara Experienceというキャンプ場でした。もちろんガイドブックなどにも載っておらず、私自身も初耳でしたが、施設はそこそこちゃんとしているようですし、近くに火山の噴火でできた溶岩窟があり(オーストラリアにも火山があったことを、恥ずかしながら私は今回初めて知りました)、一帯が国立公園になっているとかで、これなら空も暗いことでしょう。直接電子メールで問い合わせたところ、翌日には宿泊OKとの返事をもらえました。よっしゃー!予約成立。
2日目の宿についてもネットで予約(ただしこちらは代理店経由で)をかけました。見つけたのはアパートメント方式の宿で、レンジやキッチン、冷蔵庫もついていて、何か適当に持ち込めば夜食も朝食もOKという条件でした。ただし、郊外での観測時間をできるだけ確保したかったので、「真夜中(24h頃)にチェックインできますか?」と先方に念入りに確認してもらいました。
まあ、ここまで手配できれば何とか回れそうなめどがつきました。いよいよ最終段階ということで、持ち込む機材の点検と「何を何分露出で」という撮影スケジュールの作成に入ります。機内持ち込みの手荷物はレンズ類とカメラ、フィルム等をデイパックにまとめました。預け荷物には赤道儀(ビクセンSP)と今回新調したネット価格ズバリ\7,200の6cmガイド鏡(彗星の移動が速いので、核でガイドするつもりでした)、電源などを防寒着でくるんで詰めました。念のため体重計で測ってみると合計で30kg弱だったので、ギリギリセーフ。よしよし、ということで、後は出発を待つのみです。
3.結果
あれほど調べて出かけてきたにもかかわらず、Cairns空港に着いたら雨が降り出してきました。「まあ、海沿いだからしょうがないか」と、この時点では、まだ余裕?でした。ところが、レンタカーに荷物を積み込んで内陸へと走りだしても、雨は一向にやむ気配がありません。さすがに山脈を越えて内陸部へ入ってきたら雨は上がってきましたが、行けども行けども雲がなかなか切れてくれません。夕方にはキャンプ場に到着したのですが、この時点でもべた曇りでした。「350kmも内陸に入ったのに、そんなー!」
チェックインを済ませ、仕方なくロッジのベッドに横になって窓の外を眺めながらうとうと…ふと気づくと小1時間も寝ていたようです。「あれ?星が見えてきたぞ」薄明が終わろうかというこの頃になって、ようやく雲が切れてきました。「よーし、出動!」
キャンプ場から1kmも離れれば、全くの暗闇…と思いきや、暗さに慣れすぎているのか、あるいは月明かり?夜天光?黄道光?のせいかなのか、意外と空が明るく感じられました。お目当ての2彗星はというと、星図と見比べながら肉眼で見つけることができました。「やったー!2個同時に肉眼で見えた!でも、ちょっと暗いけど…。」気を取り直して、それでは証拠写真を…と赤道儀のセッティングを始めた頃から、あろう事か少しずつ雲が流れてくるではありませんか!しかも「もわーん」とした感じの、いかにも透明度を悪くしそうな「しけっている」雲が。
というわけで、この夜は眼視観測と固定撮影のみで終わってしまいました。しばらくは雲の切れ間に見える南天での斬新な星座の見え具合(地平線すれすれに南中している北斗七星や、仰向けになっているしし座、さそり座など)に興じていましたが、「明日こそガイド撮影だ」とリベンジを誓いつつ、キャンプ場へ戻ってビールとつまみで空腹を満たしました(そう言えば、無我夢中だったので夕食を食べていなかった)。
図3 固定撮影(21mm広角)でとらえたLINEAR彗星(画面中央、シリウスの左下)
翌日は一転、朝から快晴になりました。キャンプ場の周囲を散歩してみると、野生のワラビーもこちらを伺いつつ散歩していました。午前中にバスツアーで溶岩窟巡りに連れて行ってもらった後、昨日ここまでくるのにかかった時間を考慮してCairnsまで2時間程度で戻れるぐらいの場所で今夜の観測をしようということになり、キャンプ場を出発しました。
途中の雲行きをみながら(昨日と同様な天気分布で、Cairnsに戻るにつれて雲量が増えるので)候補地を選択し、夕方には道路脇の開けた空き地を見つけることができました。しばらくするとこの土地の所有者らしき人が通りがかったので、「我々は日本から来たんだが、今夜ここを借りて彗星をみてもいいかい?」と交渉し、OKをもらいました。機材も早々と組み上げ、後は薄明終了にあわせて極軸を合わせるのみ。日没時には完全に雲もとれて、快晴となりました。
で、今回の「会心の一撃(いや、2彗星だから二撃か?)」。何とか極軸も合っていたようで、無事ガイド撮影できました。ちなみに、この後Cairnsまで戻らなければならないため、手早く撮影を済ませようということで「核でメトカーフ追尾」は結局しませんでした。
図4 LINEAR彗星(135mmF2.8、4分露出、画面右端はシリウス)
図5 NEAT彗星(135mmF2.8、4分露出)
4.まとめ
格安&お気楽ツアーの割には、かなりスムーズに日程をこなすことができました。下調べを全部自分でやった分、それなりに情報が頭の中に残っていて「現地人」に近づいていたということでしょうか。極軸合わせも結構手間取りました(私は20分ぐらい格闘しました)が、極軸望遠鏡のパターンの補助用にと天の南極付近の拡大星図を印刷して持っていったのがかなり役に立ちました。
今回の遠征でもっとも困ったのは、実は食料調達でした。日程からもお判りのように、22日の観測地への移動前に買い込む食料が頼みの綱だろうな…とそれなりに予想はしていましたが、想像以上にオーストラリアは「大陸」でした。「ド田舎」どころか、「いったいどこに人が住んでいるの?」という状況でしたので、「普通の食事をするための食料を最寄りの町で調達」するためには数時間のドライブとクーラーボックスが必須でしょう。
もちろんそんな装備を持たない我々は、保存の利く食料ということで、パンとチーズ、ペットボトルの水、果物(バナナとリンゴ)、スナック菓子…と、「非常食」並の食事で細々と生き延びていました。往復の国際線で食べた機内食が、唯一フォークや箸を使って食べた食事といえましょう。キャンプ地の売店で冷えたビールが購入できるとわかったときには、思わずガッツポーズしたぐらいです。
それでも、終わってみれば「晴れて何より」でした。大満足の旅行でした。